小学生の子供さんがいる方は、歯科検診の診断用紙を何度か目にしたことがあるでしょう。
しかし、そこに記載されている記号や意味を理解しておかないと、子供の歯を健康に保つことができないかもしれません。
記号の意味を知ることで、毎日のブラッシング、定期的に歯科医院で検査を行う重要性を理解することができます。
まずは保護者が歯科衛生への理解を深めていなければ、子供の歯を健康に保つことは不可能です。
ここでは、歯科検診でもらった紙に示されている記号の意味と対処方法、そして歯科検診への理解を深めていきましょう。
学校で行う歯科検診の目的
学校での歯科検診の目的は、子どもの歯の成長を把握するため、そして潜在する歯と口腔内の病気や異常を早期に発見して、適切な処置をとるために行われます。
歯科検診では、虫歯ができていないかを確認するだけではなく、
- 健康な歯肉の状態であるか
- 歯垢はついてないか
- 噛み合わせ異常はないか
- 歯列や歯並びはどうか
- 歯の形は正常か
- 噛む力は強いか
- 歯茎から出血がないか
- 間違ったブラッシングによって歯や歯肉を傷つけていないか
- 乳歯から永久歯への生え変わりの様子
など、そのときの子どもの歯と口腔状態を把握し、異常があれば悪化させないように適切な治療、または、管理するように指導していきます。
このように、年に1度行われる学校の歯科検診は、子供の歯周疾患(歯周病)予防や早期発見に直結する大変重要な位置を占めており、予防歯科としての要素が含まれています。
しかしながら、学校で実施されている歯科検診で虫歯や口腔異常が見つかったからといって、学校で治療をしてくれるわけではありません。
ここからが、保護者の責任になります。
子供の歯と口腔内環境が良くないと指導を受けたら、できるだけ早めに歯科医院へ子供を連れていく必要があります。
学校での歯科検診は、そのきっかけになるということを覚えておきましょう。
子供の虫歯の割合
厚生労働省の調査「平成23年度歯科疾患実態調査」結果(平成23年度時点)から、子供の虫歯の割合について見てみましょう。
次の数値は、虫歯(治療済みを含みます)を持っている子供(年代別)の割合を示しています。
年齢 | 割合 |
5歳児 | 50% |
6歳児 | 42% |
7歳児 | 58% |
8歳児 | 69% |
9歳児 | 53% |
10歳児 | 63% |
11歳児 | 42% |
12歳児 | 46% |
半数近い子供たちが虫歯を持っていることがわかります。
実は、この数値、過去24年間の間に約半分にまで改善されているのです。
24年前の統計結果では、子供たちの90%から98%が虫歯を持っていました。
それが四半世紀で、驚くべき減少です。
なぜ、これだけ劇的に虫歯の割合を減らすことができたのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
定期検診の重要性
虫歯を持っている子供たちの割合が、四半世紀の間に半分にまで改善された背景には「定期的な歯科検診」の貢献があります。
学校での歯科検診、歯科医院での定期的な歯科検診、どちらも予防のための検診です。
予防が徹底しているからこそ、虫歯を持っている子供たちの割合が減ってきたのだといえます。
予防歯科の先進国といわれているスウェーデンでは、国民の80%以上が定期歯科検診を受けています。米国や日本と比較しても、定期歯科検診を受ける割合が高いほど、80歳までに残されている歯の本数も多くなる、という相関関係が見られます。
また、イギリスでは、歯が生えない時期から、歯や歯グキのクリーニングを開始するのが一般的です。
一番最初の歯が生えたら、保護者が赤ちゃんを連れて歯科医院へ出向き、かかりつけの歯科医師の指導を受け、その後の定期検診の習慣をつけさせています。
実は、生まれたときから小学生の時期までの歯と口腔の健康には、保護者の高い意識が重要な位置を占めていることがわかっています。
保護者が無関心であったり、定期検診や歯科予防の知識を持っていない場合、子供にも親と同じような意識と態度が受け継がれてしまうものです。
乳歯が永久歯へと生え変わる大切な時期どころか、将来に渡り同じような意識を持ち続けるため、生涯を通して虫歯に悩まされる傾向にあります。
歯科検診時の虫歯についての用語(言葉)解説
続いては、学校歯科検診で使用される記号について解説します。
記号の意味を知っておくだけで、その後の対応にも大変有意義です。
これを機会に把握しておきましょう。
- C(シー)
虫歯。CはCaries(虫歯)の頭文字。すぐに治療をしてください。
- CO(シーオー)
気をつけないと虫歯になりそうな歯。
つまり、「要観察歯」という意味です。
これは”初期むし歯”の状態を指します。自宅での予防、そして歯科医院での定期検診を実践してください。適切に管理をしていると、虫歯の進行を抑えることが可能です。
- 〇(マル)
虫歯治療が完全に終了している歯(治療歯・処置歯)。
- △(サンカク)
永久歯を失っている喪失歯。
- ×(バツ)
要注意の乳歯。必要な場合は抜歯をすすめられる場合がありますので、歯科医院を受診しましょう。
- G(ジー)
歯肉の炎症がある状態。歯科医院での治療が必要になります。
- GO(ジーオ-)
適切なブラッシングで炎症がなくなる程度の歯肉炎(歯肉の軽い炎症)。歯科医院での定期検診が必要です。
歯科検診用紙のチェックポイント
保険指導では、「C」「G」「CとG」があると、歯科医院で治療するよう指導されます。
上記の記号以外にも、気になる指導がありますので、確認していきましょう。
「虫歯あり」と記載がある場合
「虫歯があります」と記載されていた場合は、虫歯の進行の度合いに関わらず、まず歯科医院を受診しましょう。
肉眼では見えないし、子供が痛がっていないから大丈夫かな?
と過信すると、虫歯が進行してしまう恐れもあります。学校の歯科検診の結果は、虫歯の早期発見や治療だけではなく、軽度であれば進行を食い止めるなど適切な指導を受けることができます。
子供が虫歯予防を理解できないうちは、親がかわりに適切な判断をくだす必要があります。なるべく早めに歯科医院を受診するようにしてください。
「要注意乳歯あり」 と記載がある場合
ちょっと気になるのが、「x(バツ):要注意の乳歯」です。
乳歯の生え変わりは、平均して6歳から12歳頃に起こります。
したがって、学校での歯科検診は、子供たちの歯が生え変わっている時期の検診になります。
うまく生え変わることができなさそうな歯、永久歯の歯並びに悪影響を与えそうな歯、などは歯科医院で抜歯をしたほうが良い場合もあります。
自然に抜けるまで乳歯を放置しておく場合がほとんどですが、グラグラしていてもなかなか抜けない場合は、乳歯の根が折れてしまうこともありますので、歯科医院を受診しましょう。
「歯みがきが不十分」と記載がある場合
「歯磨きが不十分です」という警告を受ける場合もあります。
この場合は、歯の表面の着色や汚れの付着が見られるため、子供が適切に歯磨きをしているかどうかを見守ってあげたり、保護者が仕上げ磨きをするなどして、磨き残しの有無を毎日チェックしましょう。
また、歯ブラシを使い古していたら、新しいものに替えるなど適切な対応をしましょう。
歯垢(着色や汚れ)が歯石へと移行してしまう前に、歯科医院での定期検診でアドバイスを受けることをおすすめします。
「歯肉に炎症があり」と記載がある場合
「歯肉炎症があります」という警告を受ける場合もあります。
厚生労働省の調査では、5歳から14歳までの子供の40%が歯肉炎になっているという結果が出ています。適切なブラッシングができていないと、歯垢が歯石になり、歯周炎を引き起こしますので、ぜひ、歯科医院を受診してください。
「歯並びが悪い」と記載がある場合
最近では「歯並びが悪いです」と指摘される場合が多くあります。
歯並びが悪いと噛み合わせも悪く、磨き残しが多くなり、歯垢や歯石、歯肉炎になって、結果として虫歯になる可能性が高くなります。歯並びを矯正をしたほうが良いかどうかも含めて、かかりつけの歯科医で意見を聞いて、適切な指導を受けましょう。
その他の注意が必要な場合
前述した警告以外にも、注意が必要となる歯と口腔の異常は多く存在します。
- 過剰歯(かじょうし)
決まっている本数より余計に存在している歯(必要のない歯)です。過剰歯は歯並びに悪影響を与えるため、抜歯が積極的にすすめられています。過剰歯は、なかなか永久歯が生えてこない、歯がまっすぐ生えない、などの原因となります。
- 癒合歯(ゆうごうし)
隣同士の歯と歯がくっついて1本の歯のようになっている歯です。主に乳歯で見られますが、癒合歯の問題点は、2本の乳歯が癒合しているため、その根が2本ではなく1本となり、その後の永久歯が2本ではなく1本だけになるという点です。また癒合している歯の境目では、歯垢や歯石が溜まりやすく、磨き残しも多くなり、虫歯を発生する原因になります。
- エナメル質形成不全
エナメル質は歯の表面に存在していますが、何らかの原因によってうまく形成されない場合があります。軽度の場合は、生えたばかりの歯の色が、黄色っぽい、茶色っぽい、濃い白色をしています。さらに重度になると、歯の変形(でこぼこしている、不自然なくぼみ、穴がある、象牙質が露出している)が見られます。軽度であれば特に治療は必要ありませんが、定期的にフッ素塗布をするなどしてバリア機能を守ってください。重度の場合は、歯科医院での治療が必要です。
- 上唇小帯(じょうしんしょうたい)異常
上唇小帯とは、上唇と歯茎をつなぐ上前歯の中央部分の筋(すじ)です。この部分が太い場合、永久歯の真ん中が離れた状態になることがあります。筋が伸びているために上唇の動きも悪くなり、筋が邪魔になって、うまくブラッシングができません。乳歯が永久歯に生え変わる頃、あるいは明らかに歯と歯の間に小帯が入り込み、歯並びに悪影響を与えている場合は、切除したほうが良い場合もあります。
- 舌小帯異常
舌小帯は、舌を上方向へ上げたときに、舌裏側の真ん中から下顎の歯茎にくっついている筋(すじ)です。この舌小帯に異常がある場合は、舌を伸ばして上顎につけることもできず、舌を前に出すと、舌先がハート型に割れています。この影響によって、発音障害、不正咬合(歯並びや噛み合わせが悪い状態)を引き起こします。小児期の発音が悪い原因が舌小帯にあると判断された場合は、筋を切除することもあり、また、不正咬合の場合には、歯列矯正治療を行うことがあります。
早期発見・早期治療のメリット
歯、歯肉、口腔内の異常、どれにおいても、早期発見・早期治療が重要です。
そのメリットとして、次の3つがあげられます。
- 虫歯や歯肉炎の発見が早ければ早いほど、その進行を防ぐことができる
- 歯と口腔内の健康状態を定期的にチェックすることで兆候がつかめるため、予防が可能になる
- 歯や口腔内の健康を邪魔するような異常を早期に治療することで、その後の状態を健康的に維持することが容易になる
早期発見・早期治療のメリットは計り知れません。
なぜなら、歯は一度失ってしまうと、完全に元の状態に戻すことはできないためです。
歯、そして歯肉、あるいは口腔が悪化している、あるいは異常な状態を放置しておくと、歯垢・歯石、歯肉炎・歯槽膿漏、虫歯を発生させます。
成人してからではなく、生まれたときから、そして歯が生え変わる時期の定期的な歯科検診は、一生続く、その後の歯と口腔の衛生状態にとって、大変重要な役割と意味を持っているのです。
歯科検診の用紙をしっかりチェックして悪化を防ぎましょう!
さあ、これで、学校から受け取る歯科検診の用紙の見方がわかりました。
子育て中のお母さんにとって、歯科検診の用紙はとても重要な診断結果です。
記号の意味だけではなく、顎関節症などそれ以外にチェックしなければならない項目も、しっかり理解することで適切な処置がとれます。
学校での歯科検診は年に1度ですから、健康な歯を保つためには、できれば半年に1度、歯科医院で定期検診を受けるようにしてください。
歯科医院では、歯垢・歯石、虫歯の有無のチェック、歯の清掃、フッ素の塗布、そして正しいブラッシングの仕方も学べ、歯の噛み合わせや歯並びなどもチェックしてもらえます。
毎年、かかりつけの歯科医院を訪れ、親子でいっしょに検診を受けるようにしましょう。
また、毎日の歯磨きもしっかり行い、お子さんの口腔ケアに努めましょう。
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- 定期的な歯科検診により、子供の虫歯の割合は大幅に減少する
- 「C」と「G」は歯科医院受診のサイン
- 「歯磨き不十分」「歯肉の炎症」「歯並びの問題や異常」は歯科医院受診のサイン
- ひとりでしっかり磨けない時期は、保護者の歯磨き後のチェックが大切
- 保護者の高い意識は、子供の健康な歯の維持に必要である
- 歯の定期検診は、健康な歯と口腔を維持するための重要な役割がある
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